板橋区・ReLink・ASIBAのコラボレーションで、高島平アップサイクル・プロジェクトを開始します!

記事

本記事は、一般社団法人ASIBAnoteに掲載された記事を、許可を得て転載したものです。

1. 概要

一般社団法人ASIBAは、板橋区高島平まちづくり推進課、及び合同会社ReLink(ASIBA PROJECT LABEL ※1)とのコラボレーションで、高島平アップサイクル・プロジェクトを開始します。本プロジェクトは、来年解体予定の高島第七小学校の廃材リユース・アップサイクルを起点として、高島平団地全体での地域循環システム形成を目指し、リユース文化の醸成やリユースを起点としたコミュニティづくりを行うものです。

※1 ASIBA PROJECT LABELは、シード段階のクリエイティブなプロジェクトを対象に、独自のパートナーシップを締結し、社会実装・事業化・経営支援を行い、活動を加速させることを目的としています。単なる支援者や資金提供者としてではなく、シードプロジェクトに伴走するチームの一員として、構想段階から実装段階まで一貫して共に取り組むことで、プロジェクトが社会に与えるインパクトの最大化、その先の社会変革を目指します。

2. 高島平団地と高島第七小学校について

高島平団地が竣工したのは50年以上前の1972年のこと。入居者の高齢化と同時に、建物の老朽化も進行し、公共・公益施設の中には現在のニーズに合わなくなっているものもあります。

都営三田線高島平駅の目の前にある高島第七小学校(高七小)は、1979年に高島平地域で7番目の小学校として開校されましたが、2007年に閉校し、高島第二小学校と統合されました。長らくその活用方法は決まっていませんでしたが、低層部に生活利便施設を配置したUR都市機構の賃貸住宅及び地域活動のための広場が計画されており、高経年化したまちの連鎖的な建て替えの起点となります。

一方、連鎖型の建て替えは住民の引っ越しを伴うため、大量のごみの発生が予想されます。また、50年間続いてきた街並みは大きく変化してしまうでしょう。さらに、住民の高齢化が進行する中で、病気や災害時を見据えた地域コミュニティの重要性も高まっています。本プロジェクトはこのような課題に対し、地域内でリユースの文化を醸成しつつ、部材のリユースにより思い出や記憶を新しい建物へと継承し、そしてリユースを通じた団地内外のコミュニティ形成を目指していきます。

3. アップサイクル・プロジェクトについて

合同会社ReLinkと一般社団法人ASIBAは、板橋区と共同でアップサイクル・プロジェクトを実施し、環境負荷を低減する地域内循環の文化醸成を行います。また、高島平の「これまでの50年」を考えるきっかけとしての解体をスタート地点に、「これからの50年」のあり方を地域住民の皆様と一緒に考え、つくり、発信します。

コアバリュー

本プロジェクトでは、従来のアップサイクル事業との差異を念頭に、以下の3点をコアバリューとして大切にします。

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1 参加可能性
ただ部材のアップサイクル率を上げるのではなく、アップサイクルのプロセスを開き、より多くの方が参加することを大切にします。

2 未来志向
従来の棟下式や解体祭は、過去を弔い、現在を見つめるイベントでした。本プロジェクトは、アップサイクルを通じて過去を未来につなげ、未来の高島平を考えるキッカケをつくります。

3 モノのスケール
従来のまちづくりワークショップは、地域全体を俯瞰した視野が求められ、対話が起きにくくなっていました。本プロジェクトはモノのスケールまで落とすことで、地域の未来を自分事として捉えやすくし、対話できる場を作ります。

将来的な展望:地域循環システムの形成

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本プロジェクトは高七小を出発点とし、将来的には高島平団地全体に広がる地域内循環の創出を目指しています。単なるモノの循環ではなく、モノを介して地域の記憶が継承され、住民同士のコミュニティが生まれ、環境負荷低減にも貢献する具体的なモデルづくりを行います。

4. 具体的な実施内容

「棟下式」での参加型解体ワークショップ・解体祭

高七小では、今年度1年間にわたって数回の「棟下式」を行い、年度末にはグランドフィナーレが執り行われます。これまで2度行われた棟下式には、卒業生・地域住民・子供たちなどが多く参加してきました。本プロジェクトでは、アップサイクルに関心を持ってもらうための入り口として、7月5日に開催された第2回棟下式にてワークショップを実施しました※2。今後も年度末まで複数回予定されている棟下式、及びグランドフィナーレにて、参加者と一緒に小学校の部材の解体や記憶のアーカイブを行ってまいります。

※2 詳細は「5. 第2回棟下式(7月5日開催)でのワークショップについて」を参照してください。

アップサイクル・ラボ

棟下式などで解体された部材を用いて、什器や家具の制作を行います。制作プログラムとして関心のある方々を招き、地域イベントで利用する什器やコミュニティスペースで利用できるプランターやファニチャーづくりからはじめ、徐々に制作物をアップグレードしていきます。解体をスタートとして、高島平の「これまでの50年」と「これからの50年」を繋ぐ居場所をつくります。

詳細はUDCTak及びASIBAのホームページにて発信してまいります。

4. サーキュラー・エコノミーの課題と高島平の可能性

本プロジェクトは、老朽化した公共施設の市民参加型アップサイクルとして、従来のアップサイクルやリユースプロジェクトと比べてユニークかつチャレンジングなものになっています。私たちは高島平団地ならではのポテンシャルに着目しており、高島平だからこそ可能なプロジェクトだと考えています。

大規模で統合型の循環システムではなく、小規模で分散型の地域循環システムへ

従来のサーキュラー・エコノミーの観点からは、あらゆる地域から出る廃棄物を統合して管理・流通させる物質循環の仕組みやサービスが構想されてきました。一方、建築の解体やリユースの研究者(プロジェクトメンバーは東京大学大学院・明治大学大学院の博士課程に在学)として、サーキュラー・エコノミーの取り組みは既存の社会経済システムをむしろ強化する懸念があると考えています。

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例えば「サーキュラー・エコノミー」という概念が生まれた歴史的な経緯を見ると、その由来は1970年代の資源枯渇に対する製造業側からの要請としての省資源化・生産効率化の方法論であり、そもそも商品とはどうあるべきなのか、生産や労働や消費とはどうあるべきなのか、という視点はほとんどありませんでした。また、サーキュラー・エコノミーの重要指標のひとつである「サーキュラリティ指標」(Circular Transition Indicator, WBCSD)は、あくまで大量生産・大量消費を前提とした生産モデルの中で、再利用率を最適化するための仕組みであり、再生不能な資源・製品に対して、再生可能な資源・製品の割合をあげることが目的となっています。

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私たちは、これまでの大規模で工業的な循環システムではなく、より小規模で地域に根差した循環の形をつくりたいと考えています。それはモノに関わってきた人やその記憶が大切にされ、顔の見える関係性のもと、地域ごとに異なる個別最適的な循環の在り方です。その最初の実証場所が高島平団地であり、本プロジェクトです。

可能性①:時間をかけた解体

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中古建材のリユースにおける最大の課題は、解体が唐突に決まり、迅速に行われることで、再利用の機会とマッチングしないことです。高七小をはじめとする公共建築の解体は、一般的な解体に比べて時間をかけて解体が計画されます。この時間のゆとりは、元々の関係性を切らず、地域住民・次世代・移住者が共にまちの未来を語り合うことを可能にし、都市における「縁側」のような役目を果たすのではないでしょうか。

可能性②:コミュニティの起点としてのアップサイクル・リユース

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地域の景観が一新されることは、若い世代が流入するキッカケになる一方で、もともとの地域住民にとっては故郷の喪失を意味します。過去を弔う解体に、アップサイクル・リユースを組み込むことで、関係性を切らないまちづくりへ繋げ、地域コミュニティの物語がモノを介してあたらしい街へと引き継がれる起点をつくります。50年続いてきた強固なコミュニティがあり、かつ建て替えに際してその存続が課題となる高島平だからこそ、その意義・インパクトは大きいはずです。

5. 第2回棟下式(7月5日開催)でのワークショップについて

アップサイクル・プロジェクトのリリースに先立って、7月5日に実施された第2回棟下式にて、卒業生を中心とした一般参加者向けに「手すり解体ワークショップ」「記憶のアーカイブ」を行いました。またアップサイクルに関心がある方を集めた校内見学とものづくりワークショップも実施しました。

一般参加者向け

手すり解体ワークショップ
一般の方でも参加しやすい解体ワークショップとして、階段の手すりを解体しました。ネジを外すのが思いのほか難しく、無事に手すりを取り外せた際には大きな歓声が起きました。

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記憶のアーカイブ
ASIBAが共同開発した「記憶のカメラ」を用い、校内の記憶を集めました。「記憶のカメラ」は、思い出の場所や素材(黒板、階段、ドアノブ、掲示板など)を写真に撮り、その場で30秒間、思い出や次に使う人へのメッセージを録音できるwebアプリです。当日は合計30個の記憶を集めることができ、今後プロジェクトの参考資料として使用していきます。

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ASIBAが東京大学大学院の中條氏と共同開発した「記憶のカメラ」

アップサイクルに関心がある方向け

校内見学
アップサイクル・プロジェクトに関する説明の後、校内を見学しながらアップサイクルできそうな部材を検討しました。

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制作ワークショップ
卒業生の皆様と一緒に解体した手すりを図工室に運び込み、機材を使って思い思いに制作を行いました。ペン立てや表札などができた一方で、参加型で制作を行うことの課題も見えてきました。

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6. 最後に

現在、日本の多くの地域で高度経済成長期に作られた公共施設やインフラの老朽化が進行しています。高七小及び高島平団地で実践していくような、市民を巻き込んだ公共施設のアップサイクルは、そういった地域での有効な処方箋になると考えており、プログラムの体系化、発信、横展開を視野に入れてプロジェクトを進めていきます。

今後は第2回棟下式での知見や反省をもとに、高七小のグランドフィナーレに向けた解体ワークショップ、及びアップサイクル・ラボの企画を進めてまいります。またホームページなどでプロジェクトに関する情報発信を行い、より多くの人が解体・リユース・アップサイクルのプロセスに関わることを目指します。街の記憶の継承、リユースを通じたコミュニティ形成、そして資源の地域循環というビジョンを、ここ高島平から実現していきます。

企業情報

合同会社ReLink

合同会社ReLInkは、「解体材をもう一度つなぐ文化をつくり、持続可能な未来を実現する」ことをビジョンに掲げ、建築設計・商社・イベント企画運営事業を行っています。2023年に全国の中古建材販売店を検索できるウェブサービスを始めたことをきっかけとして、OAフロアやガラスなどのリユース品を販売する商社物流の事業開発、企業や自治体、住民と共に「制度」を含む多層的な設計を行う地域連携事業や空間・プロダクトのデザイン・製作事業を行い、持続可能な社会のあり方を実践しています。

一般社団法人ASIBA

ASIBAは、クリエイティブ領域(建築・デザイン・アートなど)の若手が持つアイデアを社会に届けるための実践型インキュベーション・スタジオであり、非営利のコミュニティ組織です。ASIBA Creative Challenge, ASIBA Creative Incubation Program, ASIBA Project Label, ASIBA STUDIOなどフェーズごとの各種プログラムを通じて、「クリエイティブ・アントレプレナー」の育成に取り組んでいます。また、若手育成にとどまらず、デザインリサーチやプログラム設計、事業開発をASIBA自身が行う中で、創造的な挑戦が正当に評価される土壌をつくり、クリエイティブ領域から社会変革の波を起こしていきます。そして、文化としてのクリエイションへの信頼を取り戻し、誰もが自分の可能性を諦めずにいられる社会の実現を目指しています。

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