
本記事は、一般社団法人ASIBAのnoteに掲載された記事を、許可を得て転載したものです。
廃校に泊まり、アートを作る。そんな心踊るテーマのもと、10組のアーティストが板橋区・旧高島第七小学校に集まりました。制作を通じて向き合うのは、校舎に息づく記憶や思い出の数々。確かに、この小学校にたくさんの子どもがいた当時を僕たちは知らない。それでも、床を剥がし、夜明けを共にし、日が暮れるまでひたすら制作に打ち込む。この小学校に宿る想いを、作品として、僕たちはどう昇華できるのだろう。そしてその想いは今後、どうこの地で「循環」していくのだろう。(文・鏡理吾)
目次
- 記憶を地域へ受け継ぐために ── これまでの取り組み
- 想いを作品へと昇華する ── 解築停留所 @高島第七小学校
- べりべりワークショップ
- 廃校アートナイト
- グランドフィナーレ
- 作品紹介
- 価値が循環する地域社会へ ── 今後の展望
記憶を地域へ受け継ぐために ── これまでの取り組み
かつて東洋一のマンモス団地と呼ばれた高島平団地がそびえ立つ高島平地域。1979年に開校した旧高島第七小学校は2007年の閉校以来、長らく活用方法が未定でしたが、来年度から一帯の連鎖的都市再生に伴う建て替えが予定されています。その解体を終わりではなく始まりと捉え、校舎の材やそこに宿る記憶を地域で受け継ぐことを目指して、2025年8月、ASIBA・板橋区高島平まちづくり推進課・ReLink(ASIBA PROJECT LABEL)のコラボレーションによる「高島平アップサイクル・プロジェクト」が始動しました。
揃って地域住民からの要望を受けて企画された、高七小への感謝と惜別を伝える式典「棟下式」に合わせ、これまで計3回のイベント・ワークショップを実施してきました。ご参加いただいた多くの地域住民との対話を通じ、アップサイクルの取り組みが単なる廃棄物や環境負荷の削減といった効果を超え、世代・立場を横断した地域コミュニティの活性化へと寄与することを実証してきました。






想いを作品へと昇華する ── 解築停留所 @高島第七小学校
およそ10ヶ月間、地域住民と共に掘り起こしてきた高七小の魅力や記憶の数々。3月のグランドフィナーレに向け、その価値をアート作品やプロダクトとしてより広がりのある形で伝えたい。そんな想いから始動したのが「解築停留所 @高島第七小学校」。10組のアーティストやデザイナーが高七小に集い、卒業生の想いやモノが残した記憶をテーマに滞在制作と展示を行います。
べりべりワークショップ
2月13日、滞在制作に先立ち、校舎部材の解体を体験する「べりべりワークショップ」を開催しました。明治から続く伝統的な手ばらし解体職人・ヤムサさんとそのお仲間をお招きし、校内に残されたさまざまな部材の一部を実際に解体しました。
初めに取り掛かったのは、以前の棟下式の際にはうまく解体できなかった教室の床材。解体職人の指導のもと、道具の持ち方や姿勢を知るところから始まり、接合部の構造を理解した上で的確な位置をばらしていくことで、最小限の力で傷をつけずに「生け取り」することができました。一般にイメージされるような “ストレス発散型”の破壊解体ではなく、丁寧に部材を「ほどく」ような感覚で行う繊細かつ合理的な振る舞いには、解体の美学を感じました。その後も理科室のテーブルなど個々の材の特性と向き合い、一つ一つを丁寧に剥がす作業の中で、これまでとは違った新鮮な気持ちで校舎と向き合うことができました。



当日参加したのは地域住民やアーティストなど合わせて10人以上。卒業生の方から当時の思い出を伺ったり、林業の専門家の方から使われている木材の素晴らしさを教えていただく場面もありました。
廃校アートナイト
3月1・2日、アーティスト10組が高七小に集い、滞在制作のキックオフとなる1泊2日の「廃校アートナイト」を実施しました。校舎の中を自由に歩き、たたずみ、解体する。時間帯によって刻々と表情を変えていく空間の中で、残された記憶や想いと向き合いながら、それぞれが思い思いに制作に取り掛かりました。アートナイト開催以降もアーティストの多くが再び校舎を訪れ、最後まで作品の制作に打ち込みました。




グランドフィナーレ
3月14日に開催された、高七小との最後のお別れの式典「グランドフィナーレ」。当日は来場者に向け、「解築停留所 @高島第七小学校」計14作品のお披露目・販売を行いました。慣れ親しんだ高七小の空間や部材は、その記憶を受け継ぎながら、新たな姿へと生まれ変わりました。作品を実際に体感し、訪れた皆さんは何を感じたのでしょうか。

作品紹介
1. マーシー「最期のよそおい」
1つの教室に死化粧をしました。黒板や壁紙の緑で草木を、ファンデーションで大地を、リップで花を表現しました。側では名画たちも見守っています。はじまりがあればおわりがある。それは建物も同じで、高七小が向かうあの世も綺麗なお花で彩られていることを祈ります。白いスプレーしたところに皆さんもお花を描いてあげてください!


2. 増田海音「『魔女が見るASIBA #04高島平に建てたいものがある』より冒頭」
本文は魔女のnoteにて。

3. 増田海音「『高七小47年間ありがとう』」


4. 増田海音「校歌を、扉の余白に」
すべてに共通する「みんな」は同じ位置に置きつつ、それぞれ構成を少しずつ変えながら書いてみました。弾むような明るいメロディーが印象的で、書きながらも気付けば口ずさんでいました。3番の最後を「心の母校」で締めるのは、ぐっとくるものがありますね。

5. 自由の魔女エル「降霊のための魔法陣」
「記憶」という霊的な生命体を降ろす降霊術を行う。
トリガーとして我々は円陣の中心(机)に立ち。東を起点にぐるぐると反時計回りでカタカナの校歌を詠み上げる。
それは、初めて詠む者と、既に知っている者との間に新たな音を立ち上げ、各々に曖昧で透けた記憶を解放させる。
外縁のルーン文字はあちら側とこちら側をつなぐための境界であり、 窓にはこの学校にまつわる誰かの記憶の物語が開かれている。
全てを斉唱した後、何か思い出すだろうか。


6. 森岡陽「Passage of Time」
給食室のシャンデリアのステンドグラスと教室の床の木材を用いて、自然の中の一シーンを表現しました。緑に囲まれた砂浜と海は、過去から未来へと移ってゆく高七小のレガシーを表しています。

7. 髙橋乙葉「箱の中の教室風景」
教室を、理科室の棚箱に詰め込みました。
教室というものはどこも普遍的で、画一的な空間です。しかし、実際の床や壁、校庭の風景を通して、ここにしかない高七小の空気感や思い出が詰め込まれていたらいいなと思っています。
この床の小さな傷は、もしかしたらあなたのものかもしれません。
皆さんが思い出す高七小の教室風景は、どんなものでしょうか。


8. Takumi Yoshida「How can we normalize anti war activism」
僕は反戦をテーマにした作品をつくる。これは怒りや自分の無力さという感情を吐き出す行為。
I make art that has anti-war messages. It releases my emotions of anger and sense of helplessness. The feeling that no matter what I do, it’s never enough.
皆んなにもっと知ってほしいとか同じように問題意識に思って欲しいとかっていうのもあるけど、それは難しいと思っているし創作意欲の邪魔にもなる。だってそんな事が俺1人にできてたら今もっといい状況になってると思う。
アーティスト概要: Takumi Yoshida
東京・上野生まれ。高校生の頃から地元で英語ボランティアガイドを務める。大学卒業後、映像会社勤務、政治家の広報を経て、ジョージア(コーカサス)に3年間在住。ロシアによるウクライナ侵攻を現地で経験したことを契機にアーティストとして活動を開始。シルクスクリーンやリノベーションを用い、戦争をポップに問いかける表現を展開している。


9. 林英「ダッツライフ!」
僕「世界はこんなにも広くて美しいのにどうして僕は隅っこで泣いてるんだろう。。。もう嫌になる!」
頭の中の天使「たまにはそういう時もあるよ。美味しいものいっぱい食べて元気だしな。」
頭の中の悪魔「メソメソするな!お前は自分に期待しすぎだ!!」
人生って何も無い様で結構忙しいんです。


10. 本多栄亮「高七小の刻(とき)を繋ぐ時計」(¥7,000)
高島平第七小学校の教室で、長年子供たちの足元を支え続けてきた床板を、時間を刻むプロダクトへと転生させました。
建物としての役目を終える校舎の一部を時計としてつくり変えることで、高七小の時間を未来へ繋ぎます。
素材の持つ歴史(過去)と、これから刻まれる時間(未来)が交差する、ReLinkによる「資源のアーカイブ」のひとつの形です。


11. 本多栄亮「高島平の継(つぎ)の苗箱」
教室の床材や体育館の壁材を、植物を育む「器」として再構築しました。
このプランターは、解体を前に校庭から救い出された苗木を受け入れ、育てるためのゆりかごとなります。
今後は、三田線沿いの緑道へと設置され、単なるリユース品に留まらない、高島平の新しいランドスケープの一部として風景を継承していきます。


12. 二瓶雄太「サルベージド・アクセサリー」(¥500)
目の前にあるリアルなモノや空間や人を直視して、どうしようもなく大きなうねりの中で小さな抵抗を続けています。


13. 二瓶雄太「 サルベージド・ライト」
目の前にあるリアルなモノや空間や人を直視して、どうしようもなく大きなうねりの中で小さな抵抗を続けています。

14. テイロ「昨日の記憶」
高島第七小学校(高七小)で拾い集めた、年代を感じさせる門札や標識、装飾などの部材によって制作されたベンチである。解体前の校内に残されていたこれらのデザインをベンチの表面に再構成することで、この場所が持っていた時間や記憶を感じられる場をつくることを試みている。
このベンチを通して、訪れる人がかつての高七小の空気や時代の雰囲気へと想像を巡らせ、その時間に少し戻るような感覚を持ってもらえればと考えている。

価値が循環する地域社会へ ── 今後の展望
この10ヶ月間、さまざまなワークショップやイベントを通じて、地域住民の持つ高七小への想いや解体を惜しむ声を幾度となく伺ってきました。同時に、アップサイクルの取り組みによって、さまざまな立場の人が交わり、地域コミュニティの活性化に繋がることを強く実感しました。また、今回の「解築停留所 @高島第七小学校」では多様なアーティストが加わることで、その価値をより開かれた形で可視化することができました。

今後私たちは、このような地域内循環を生み出し、高島平地域の環境・コミュニティ価値を高めるための仕組み作りをより継続的に実践していきます。サーキュラーエコノミーを誰もが・日常的に実践するための拠点「アップサイクル・ラボ」の整備、環境・コミュニティ価値の視点から地域内循環のビジョンを盛り込んだグランドデザインの策定など、多角的・長期的な視点で取り組みを行うことを目指します。
また、解体を“悲しい終わり”ではなく、“記憶を次につなげる始まり”に変える「解築停留所」の一連の実践を他の地域にも広げ、地域リユースの仕組み作りをより大きなスケールで進めていきます。ぜひ続報をお待ちください。
