施工と設計の両面からモノの現象を発見する工務店

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インタビュー:福元成武さん

わたしたちが図面を描くとき、線の意味を完全に理解しているだろうか。分業化が進むなか、設計者と施工者の仕事はより分離しつつあり、現場で起こっていることは設計者からますます見えにくくなっている。施工者として日々モノとの格闘を続けながら、設計にも取り組む福元成武さんの実践から、モノとどう向きあうのかを学ぶ。

右から福元成武さん・本多栄亮・水越永貴
撮影=鵜川友里香
提供=福元成武

福元成武(ふくもと・なりたけ)

株式会社TANK代表。設計事務所、鳶・土工、材木屋、大工、現場監督を経て2010年に株式会社TANKを設立。工務店として設計と制作の間で建築家とのプロジェクトに多く携わる。

HP:https://tank-tokyo.jp

線の意味を理解する

本多
 僕たちは「モノとどう向きあうのかを考えるコミュニティマガジン」をコンセプトに、モノや資源との向きあい方を学ぶことのできる記事を発信しています。今回は、「個」を大切にするという理念を掲げながら、設計と施工の両方を実践されているTANKの福元さんに、普段考えてらっしゃることを伺えたらと思います。まず最初に、TANKをはじめた経緯について教えてください。

福元
 一番はじめ、僕は設計事務所に勤めていました。建売住宅とかマンションを設計している設計事務所で、図面を描いて役所に申請する業務でしたが、工務店さんや施工会社さんに教えてもらいながら描いていたので、まあまあ一人でやれちゃっていたんですね。とはいえ、100%理解して図面を描いていたとはとても言えず、現場にもほぼ出たことがなかったので、1本の線の意味をしっかりわかっていなかった。材料の硬さや重さばかりか、単価も知らないで線を引いていたんですけど、施工会社さんにその図面を渡して、2、3か月後くらいに完了検査に行くと、それが建っちゃっているんです。そのことに何かよくわからない恐怖を覚えて、このまま僕なんかが図面を描いていていいのか、設計していていいのかと思って、工事の経験を積もうと決めました。

 まずは材料を知ることからはじめようと、設計事務所を辞めて材木屋に就職しました。材木屋で数年働くと、材料の流通や建設業の生産の構図みたいなものが見えてくるんです。当然、金額もだんだん分かってくるようになって、そこからもうちょっと規模の大きいものも経験してみようかなと、次は鳶とか土木工事とか、そういう仕事もする施工会社に勤めました。そこではリアルな生産の現場を幅広く見られてとても勉強になったのですが、今度は監督業をやってみようかなと思い、改修の現場監督をやりました。そこではじめて工事管理をしたんですけど、大工さんを間近で見ているなかで、「あれ?これは僕でもできるんじゃないか?」と思っちゃったんですよね。それで、ほぼ経験のない状態で借金しながら道具を買い集めて、務めていた会社を退社して、大工としてやっていきたいので僕に仕事を下さい、ってお願いしたんです。その時は鼻で笑われましたが、なんとか仕事をいただけることになり、いま思えばまだまだな技術だったんですけど、かたちにはなりました。

 その頃に、ふときちんとしたデザインに関われるような仕事をしたいと思い立って、友人に紹介してもらい、とある設計者のマンションリノベーションの仕事に現場監督兼造作大工として関わらせてもらいました。一人で色々やる体制はそれが最初でしたね。そこでやっぱりデザイナーや建築家と話しながらものづくりをするのは楽しいなと思えたので、しばらくは個人事業として、監督も施工もするやり方の仕事を続けました。そうこうするうちに、ある建築家さんから新築をやってみないかとお声がけいただいたんですが、新築をやるには資本的な体力も足らず、一人では請けられなかった。そこで、図描きから管理から施工まで、全部自分でやるやり方を許してもらえる施工会社さんを探し、そこに所属させてもらいつつ、活動を続けていました。

 その会社では社長のやっていることも間近で見ていたんですけど、僕だったらこうしたいなとか、経営者目線で仕事を見るようになりました。個人事業の限界もわかっていたので、やがて自分でチームをつくるとしたらどうするかを考えるようになり、法人化して複数人でやろうと思ってはじめたのがTANKです。現場監督も造作大工もやれる会社です。それが13年前の2010年のことですが、その後、TANKに入ってみたいって言ってくれる人たちは、設計事務所から来る人の方が多いんですよ。そうすると、当然そういう人たちは設計もやりたいので、じゃあ設計もできるような会社にしていこうかということで、施工も設計もどちらもやる会社になりました。

本多
 僕が想像していたよりずっとたくさんの経験をされてきたのですね。図面の線の意味があまりわからなかった昔と、材料や施工、その管理や経営まで経験された今とでは、建物の見方やつくり方に関して考え方が変わったことはありますか?

福元
 生産性を考えるようになりました。やっぱりつくり手側の世界を知ると、どうしても生産性とか構法に注目した設計をしはじめますね。木取りのように、このサイズでつくらないと材料が勿体ないという話があるじゃないですか。やっぱりそこからは逃げられないですね。そういう見方をするようになったので、お願いされれば何でもかんでもつくるような会社にはなれないなと思っています。一方で変わらないのは、自分で考えたものを自分でつくる楽しさ。これはとにかく、TANKをはじめる前も後も変わりません。

図面に載らない「現象」

水越
 自分のつくりたいものをつくるという意味では、あそこにある植木鉢はすごく自由にモノと向きあってつくられていますよね。積層させたスタイロを熱した土で溶かして植木鉢にしている。ここには新しいモノの見方を感じますが、こういうつくり方って、モノを実際に触ったことがない設計者にはなかなかできない発想だと思います。つくり手の立場からのデザインが持つ新しさについて、お考えのことはありますか?

熱した土を流し込み、スタイロフォームを溶かすことでつくられた植木鉢
撮影=鵜川友里香

福元
 まず、僕らは建物のかたちを決めるデザイナーではないので、造形という意味でのデザインはしない、できないって思っているんですよ。じゃあどこでデザインをするのかというと、スタイロが溶ける現象のような、図面に現れないことかもしれないです。この植木鉢では、こぼれた土がまわりに穴を開けてしまっていますが、これがデザインとしては効いていて、でも狙っているわけではないので、ただの現象ですよね。造形はデザイナーさんにやってもらって、僕らは目の前のモノが日々起こしている現象とか、反応とか、そういうものを見逃さずに、それがデザインにつながるんじゃないかということを常に考えて、協働する人にも伝えながらつくっています。

本多
 図面に現れない現象によるデザインというと、2015年の《A Dog Run》は面白いですよね。木材に溝を入れて曲げていますが、溝のピッチを変えると曲率も変わるので、実現したいかたちにふさわしい溝の位置が検討されています。でも、板が真っ直ぐなものだと思っている人には、木材がどこまで割れずに曲げられるのかわからないし、そもそも発想もできない。実物を触ってる人にしかわからない、モノが起こす現象が捉えられていて、すごいなと思うんです。

《A Dog Run》
撮影=長谷川健太
提供=福元成武

福元
 やっぱり、図面だけ描くって怖いですよね。僕は毎日実際に見ているので、材料に水平や垂直はないということが目に焼き付いているのですが、図面を描く人ってどうしても水平・垂直からスタートするじゃないですか。でも、ベニアも当然よく見たら曲がっているし、木なんてどうせ曲がるんですよ。むしろそれが当たり前で、それを使ってどのようにつくれば水平・垂直にできるのかが私たちの勝負どころなんです。

水越
 なるほど。そういった人の思い通りにならないものから出発してつくっていくことが新しいデザインへと繋がっているんですね。

福元
 僕たちが設計と施工をした《XCHANGE APARTMENTS》ではモルタルの床を金継ぎしたのですが、僕はモルタルの床って割れて当然だと思っているんですね。ただ、一般の人からするとモルタルの床が割れていれば、不具合に見えるんです。要するにネガティブなものとして捉えられてしまう。それを最初からデザインにしちゃおうと金継ぎしました。補修の仕方をデザインしたって言えばいいのかな。経年で起こるネガティブなものに対して、最初からポジティブな答えを準備しておいたのです。完成してから数年も経つと、ひび割れが新しく発生しているところもでてきてしまうのですが、最初に金継ぎしておいたことで、新しいひびも「ここも金継ぎしちゃえばいいんだ」と思われて、未来の楽しみのようなものになる。僕はクライアントのそんな様子を見て、良かったなと思いました。

《XCHANGE APARTMENTS》
撮影=長谷川健太
提供=福元成武

モノがモノらしく存在すること

本多
 モノって時間的に変化もするし、そもそも絶対的にきれいと言えるようなモノも少ないですよね。でも、モノはひとつひとつ違っていて、個性がある。お話を聞いていると、そうした個性とポジティブに向きあっていて素敵だと感じました。つくることとデザインを行き来されているからこその視点なのかなと思いました。

水越
 TANKさんがつくるものからは、モノが時間とともに変化するからこそ生まれる面白さを感じます。《大津駅前のストリートファニチャー》では古材をリユースすることで、経年によって生じる様々な変化を捉えているのかなと思いました。一方、古材は加工が難しいと言われたりしますが、これはそうした制約からくるデザインなのでしょうか?

《大津駅前のストリートファニチャー》
撮影=長谷川健太
提供=福元成武

福元
 古材は難しいなというか、手間がかかるなと思います。おそらく最初は正方形断面のまっすぐな材料だったのが、僕らが古材として収穫するときは、もう断面が台形になっていて、曲がっていたりもするわけですよね。そんな材から新しくものをつくろうとすると、まず正方形にして、まっすぐにしてからつくるといった具合に、手間がかなりかかります。だからこそ《大津駅前のストリートファニチャー》では、サイズが違う古材それぞれを特に矯正はせず、加工が簡単で追従性があるスタイロでつなぐことで、いびつなものといびつなものをやんわり繋げるディテールとしました。ですので、ここでは古材をありのまま使っていて、まったく加工せずにできました。

水越
 個性のあるかたちを持ったモノを、そのかたちのまま扱うということですね。かたちや寸法が違うモノたちが、モノとしてありのままに存在することで、それを使う人々に新しいふるまいをもたらす可能性も感じました。

「個」を深掘りするケンチクカツアゲ

本多
 TANKさんがつくるものって、個性的というか、その場にしかないようなものだといつも思うんです。TANKさんご自身でも「個を大切にする」ことを理念とされていますが、福元さんは個の大切さってどういうところにあると思いますか?

福元
 活動を続けてわかってきたことですが、僕たちは個を大切にしているというよりは、個を掘り下げているのだと思います。たとえば古材にしても、その個性の10段階のうち2段階くらいまではみんな知っているんだけど、「こいつの持っている個性ってもっとあるんじゃないの」という部分を掘り下げて、「ほらこんな面白いのが出てきたよ」みたいなことをしているだけかもしれないです。なので、個を大切にしようという意識は特にないというか、もっと知ろうとしているだけだと思います。でも、それが大事だなと思っていて。

 構法や工法って、ある決まったやり方に標準化されていくことが多いじゃないですか。でも、果たして本当にそれでいいのか。今この時代に、その標準化されたつくり方って正しいのか、適正なのかを疑って、挑んでいきたいなと思っています。材料が変わったり、つくる人が変われば、つくり方もそれぞれ違ったほうが適正なのかもしれないですよね。なので、材料だけに限らず、つくり方についてもどんどん疑って、ニュートラルな目線で掘り下げようとしてます。つくり方からもデザインとして昇華できることがありますからね。

水越
 それもつくり手だからこそ見える視点ですね。図面でデザインするときはモノを表面的な部分だけで見がちだと思うので、モノの中身を見るという意味ではものすごく新しい視点だと思います。

福元
 でも、見方を変えると特別なことをしていないとも思います。何か新しいことをしようとか、そういうことではなくて、今すでにある材料に対して、そのつくり方をもう一回、「お前ら本当にこれだけなの?もっと持ってるんじゃないの?」みたいに掘り起こしてみる。カツアゲみたいに(笑)。ケンチクカツアゲだね(笑)。そういう姿勢で望んでいます。

本多
 設計している人はモノに対して、自分がやりたいことを叶えてくれる道具というか、何でも好きにできるというふうに見ていることが多いと思います。でもケンチクカツアゲでは、モノがほぼ人に近いというか、掘り下げられるだけの個性があるものとして向きあっているところが本当に素敵だなと思いました。設計者として見習わなきゃいけないなと思います。

設計者とのコミュニケーション

本多
 これまで設計側と施工側の両方の目線からモノづくりに関わられてきたわけですが、設計者にもっとこうして欲しいと思うことはありますか?

福元
 設計者さんが考えられない部分を補うのが僕らの仕事なので、設計者さんはこうあってくださいと言うと、僕らの役割がなくなってしまいますよね。だから特に言うことはないです(笑)。ただ、設計者さんもモノのことを知った上で設計した方が、余計な手間がかからない。それってつまり、お金と時間に関わってくるので、その2つをもっとパフォーマンスの高いものにできるよね、というのはやんわりと言えますかね。

本多
 設計者に対して言うことがないというのは、すごく魅力的ですね。つくる人と設計をしてる人ってちょっと対立的に見られがちだと思いますが、お話しを聞いていると、対立的に考えるよりは、お互いの良いところをそれぞれが持ちながら、コミュニケーションを取ってつくることを目指せた方が、社会は良くなっていくし、モノをつくること自体が楽しくなっていくのかなと思いました。

福元
 なるほど。たしかに、設計者さんはデザインだけやっててくればいいですよ、と思う時はあります。要するに、モノに近すぎると見えなくなることってあるんですよ。逆に言うと、俯瞰している人たちだからこそ見えるものがあって、そういうデザインが来たときが、僕らにとっては新たな学びの場所になるんです。それが刺激になり、つくることもより楽しくなります。僕たちが考えたこともない、見たこともないものを頑張って具現化させるのが醍醐味だし、やりがいですね。

水越
 設計側と施工側の協働というと、TANKさんはスキーマ建築計画さんと一緒のお仕事が多いですよね。中でも《SENBAN》は、長坂常さんのアイデアをTANKさんが実現したものだとお聞きしました。これは今の話にすごく沿っているというか、納得できた部分があります。

福元
 《SENBAN》は、こういうことができるんじゃないかという長坂さんの話を聞いてつくってみました。長坂さんは、最初に聞いたときには「そんなのできるわけないじゃん(笑)、でもちょっとやってみたいかな」って思えるようなことを考えてくれる人ですね。それでつくってみたら楽しいし。長坂さんは道具を見て、いままでとは違う使い方を言い出すこともあって、そういうところも面白いです。繰り返しつくるのは大変なんだけど、発見があって、新しさに繋がるものを考えてくれるところはやっぱり良いですね。

水越
 まさか煉瓦があんなかたちになるとは思いませんでした(笑)。

福元さんのInstagramより

福元
 つくるの大変なんですよ。でもやりがいがあってすごく楽しいです。

水越
 とてもいい関係性だなと思いました。

福元
 そう感じてもらえるとありがたいですね。そういうファンを増やしたいなと思います。僕自身が長坂さんのファンだというのもありますが、長坂さんのように、つくりたいと思えるものを考えてくれている人たちと、これからもたくさん出会いたいなと思ってます。

本多
 設計者として抱いた、モノを知らないという危機感から、行動を起こし、実際の建物をつくる経験を通して、図面には現れないモノが持つ「現象」を大切にするようになったこと、そして設計者との創発を信じていることが、福元さんに感じる安心感なのだなと思いました。
 これからも、ケンチクカツアゲによって発見されたモノの新しい可能性を、福元さんたちのお仕事を通じて見られるのを楽しみにしています。

撮影=鵜川友里香
2023年3月3日 株式会社TANKにて

企画=ReLink・明治大学構法計画研究室
取材・構成=本多栄亮・水越永貴
監修=門脇耕三
協力=明治大学構法計画研究室

本多栄亮(ほんだ・えいすけ)
1997年生まれ。修士(工学)。明治大学理工学部建築学科助手。明治大学大学院理工学研究科博士後期課程2年。2023年、水越永貴・杉野喬生と共にReLinkを創設、代表。2019-2020年に学生による設計施工を行う学生団体DaBoの共同代表を務める。卒業設計では赤れんが卒業設計展2021で佳作を受賞。古材を利用した設計などを行う2人組設計チームLinゝメンバー。研究者として建材リユースの流通に関する研究を行う。
Twitter:https://twitter.com/ei_ar_ch
Instagram:https://www.instagram.com/eisuke.honda/

水越永貴(みずこし・えいき)
2000年生まれ。修士(工学)。都内建築設計事務所勤務。2023年、本多栄亮・杉野喬生と共にReLinkを創設。大学院ではReLinkを通して設計者に対する中古建材の利用可能性の研究を行い、2023年度日本建築学会大会デザイン発表会にて優秀発表賞、2024年度日本建築学会関東支部大会にて若手優秀研究報告賞などの受賞。
Twitter:https://twitter.com/e_3254__
Instagram:https://www.instagram.com/e__3254/

明治大学構法計画研究室(めいじだいがく・こうほうけいかくけんきゅうしつ)
2012年に明治大学にて発足した、門脇耕三が主宰する研究室。建築構法についての研究を主な活動とする。「モノに知性を宿す回路は、現代の文脈において、如何に構築可能か?」をテーマに掲げ、研究に加えて、建築設計・技術開発・様々な分野の専門家との対話など、多様な活動を展開している。
HP:https://www.kkadlab.org/
Twitter:https://twitter.com/kkla1117
Instagram:https://www.instagram.com/kadowaki_lab/

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