みなさん、こんにちは。渡会です。
先週の概要に続き、今週は「モノ性の書き換え」に迫って参ります。
先に大事なことをのべると、今回の事例からわかるスポリアの面白さって、奪うモノを奪われる側に持っていくときに一見同じものでも場合によっては意味が変わるところにあります。
その時、「誰が、何を、なぜ奪うのか、なぜ欲しいのか」を掴むことがスポリアの面白さに繋がってくると思います!
では、内容に行きましょう。
02.サンタ・マリア・イン・トランスヴィレ聖堂–権力の表現と意味の書き換え–
2-3祈りへの翻訳
先週は、トランスヴェレ聖堂でのスポリアを述べてきましたが、本題はここからです。
カラカラ浴場から奪った柱頭にはハルポクラテスという神が装飾されていました。神殿に入る人々に沈黙の印象を与えたのがハルポクラテスの像の誕生とされています。
ハルポクラテスと検索しWikipediaで画像を見てみてください。
シ――っという感じで指が口の前にある像の写真があると思います。このポーズがハルポクラテスを象徴していています。
ハルポクラテスは像だけじゃなくて、いくつかの芸術作品にも登場します。そこでは沈黙・賢者・哲学者として表現されています。(「沈黙するものは賢者なり」という銘の版画とともに存在。)
つまり、ハルポクラテス=沈黙の神ということが分かり、さらに言えば沈黙=賢者といえることもできます。カラカラ浴場図書館の柱頭部にハルポクラテスが描かれていたのは、「図書館だから静かにしろ」、「沈黙し賢者になれ」といった意味合いが元々込められていたのではないでしょうか。
では、インノケンティウス2世はスポリアする際どのような意味合いであつかったのでしょうか。
有権者や皇帝であるインノケンティウス2世はハルポクラテスが沈黙、賢者等の表現をしていたのは知っていたでしょう。
それ故にハルポクラテスを教会という静寂の場に、沈黙を与える偶像として使用した一つの理由があるのは推測できます。しかし、主題は他にあると私は思います。当時の迷信には、口の前に置いた指は、悪魔の侵入を防ぐというのがありました。悪魔は不適切な考えや罪深い考えを口にするよう促して、祈りを妨げる、これを防ごうということです。
スポリアした理由として、この聖堂に「祈り」としての意味を加える、願うといったことがありそうです。カラカラ浴場の図書館で沈黙、賢者、静寂の意味合いが込められていた偶像を、沈黙そして祈りという意味に翻訳してインノケンティウス2世はスポリアをしました。
こんな感じでトランスヴィレ聖堂の事例紹介を終えたいのですが、ここで伝えたいのは場が変化すると同じモノでも意味が変わることがあるということです。
形としては同じなんだけど周囲との関係や、奪う人の意志から意味は変わっちゃうことがあったんだというのが面白いところです。
次回からはこれまで紹介したスポリアについて考察していきたいと思います!
渡会裕己/ReLink